立地適正化計画と不動産価格への影響

立地適正化計画と不動産価格への影響

我が国の都市における今後のまちづくりは、人口の急激な減少と高齢化を背景として、高齢者や子育て世代にとって、安心できる健康で快適な生活環境を実現すること、財政面及び経済面において持続可能な都市経営を可能とすることが大きな課題です。
 こうした中、医療・福祉施設、商業施設や住居等がまとまって立地し、高齢者をはじめとする住民が公共交通によりこれらの生活利便施設等にアクセスできるなど、福祉や交通なども含めて都市全体の構造を見直し
、『コンパクト・プラス・ネットワーク』の考えで進めていくことが重要です。
 このため、都市再生特別措置法が2014年に改正され、行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進するため、立地適正化計画制度が創設されました。

簡単に言えば「まちをコンパクトにする」計画ということですが、今回はこの計画の意味や、不動産価格への影響についてお話しします。

都市再生特別措置法改正の背景

急速な人口減少と高齢化が進展していくことが懸念されている中、人口密度がある一定水準を割り込むような地域においては、当然ながらその地域の税収が減少するとともに、地域全体をカバーしている医療・福祉・子育て・商業・その他インフラを含めた各種生活サービス機能や行政機能の提供のための財政支出が困難になっていくことが予想されます。

こうした問題を回避するために、各種サービス機能や住居等の立地について計画的に誘導し、そうした地域に集中的に財政支出を行うなどして、公共交通を充実させ、生活サービス機能へアクセスしやすい環境を整えることで、コンパクトシティー・プラス・ネットワーク型のまちづくりを目指そうとするのが立地適正化計画です。

改正都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画

改正都市再生特別措置法では、初めて「コンパクトなまちづくり」と「公共交通によるネットワーク」の連携を具体的に措置しました。
また、「コンパクトなまちづくり」を進めるためには、居住や福祉などの民間の施設や活動が重要であることから、都市全体を見渡しながらその誘導を図ることに、初めて焦点を当てています。

都市機能誘導区域と居住誘導区域

多くの地方都市は、高度成長期に拡大路線をとって膨張してきました。今後、地方都市では高齢化が進んで福祉や医療費の増加は避けられませんが、働き手になる若年層の人口は減少していきます。しかし、それでは効率が悪いと、これをコンパクト化して効率化しようというのが、この立地適正化計画の狙いです。

言い換えると立地適正化計画とは「自治体が使えるお金が減っていくので、公共サービスを維持するエリアを決めて、そのエリア内に居住を誘導する計画」を決めてより合理的に行政運営をしていこうということです。

まずは商業施設や福祉・医療施設などの立地を促す「都市機能誘導区域」を設定します。「都市機能誘導区域」の周辺には、人口密度を維持ないしは増加させ、生活サービスやコミュニティが持続的に確保できるよう居住を誘導する「居住誘導区域」を設ける。

こうした拠点を結ぶ鉄道やバスなどの公共交通ネットワークなども、併せて位置づける。さらに、この地域には容積率の緩和や税制優遇、補助金制度などで、他の地域からの移転も促していくことになることが予想されます。

都市機能誘導区域と居住誘導区域イメージ

緩やかに誘導

こうした都市計画というものは、息の長い取り組みで、ある日、線引きされたからといって、突然何かが変わるわけではありません。どの自治体でも15~20年後といったスパンを展望しつつ、5年ごとに見直しを行うとしているケースが多いです。
それでも、これから本格的な人口数減少が始まる中で、街にドラスティックな変化が起こるのは間違いがないので現行の規制はまだ緩いものであるが、徐々に誘導が強化されていくと思われます。

誘導するといっても、ムリヤリ引越しをさせるという意味ではなく、エリア「外」の公共サービスをどんどん縮小していくことで、「中心部に移り住んだほうがいい」と思わせるように誘導するのです。

居住誘導区域外の地域は、例えば近くにあったはずの市立病院はなくなり、バスの停留所もなくなり、保育所がなくなりといった具合に徐々に住みにくい場所になっていくことが予想されます。

時間軸をもったアクションプラン

都市機能誘導区域と居住誘導区域のイメージ

都市機能誘導区域

○区域の設定(必須事項)
・都市機能誘導区域は、医療・福祉・商業等の都市機能を都市の中心拠点や生活拠点に誘導し集約することにより、これらの各種サービスの効率的な提供を図る区域です。
○誘導施設(必須事項)
・誘導施設とは、都市機能誘導区域ごとに、立地を誘導すべき都市機能増進施設※です。

※ 居住者の共同の福祉や利便性の向上を図るために必要な施設であって、都市機能の増進に著しく寄与するもの。

居住誘導区域

○区域の設定(必須事項)
・居住誘導区域は、人口減少の中にあっても一定エリアにおいて人口密度を維持することにより、生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう、居住を誘導すべき区域です。

※市街化を進めようという市街化区域内であっても、居住誘導区域外となっている地域があります。市街化区域内で居住を誘導しない区域が存在するということは、まさにコンパクトシテイー化によってまちを効率化しようと
していることの表れです。

都市機能誘導区域・居住誘導区域

注意事項としては、以下の2点があげられます。

  • 居住誘導区域外で3戸以上の住宅の新築や1000平方メートル以上の開発行為をする場合は、市町村長に対し事前の届け出が必要となり支障があると認められた場合には、市町村長は立地適正化のための勧告ができる。
  • 「都市機能誘導区域に誘導する施設」を「都市機能誘導区域」外につくる場合は、市への届け出が必要となります。

要は、計画的なコンパクトシティに反する開発には、市に届け出る必要があるということです。

不動産価格への影響

居住誘導区域外のエリアは価値が下がる

居住誘導区域外となった地域は、今後取り残される可能性が高いということです。これから購入しようとしている家が居住誘導区域に入っているか、そうでないかは、宅地建物取引業法で説明が義務づけられる重要事項ではないので必ず市町村のホームページを確認して居住誘導区域をチェックしておきましょう。

居住誘導区域外となったエリアの不動産価格の将来的な資産性は見込めないと覚悟しておこう。上下水道のインフラ修繕は後回しとなり、やがては修繕すら行わないということになる可能性もあります。また、ゴミは区域内まで運んで捨てなければならなくなることもあるかもしれません。

そうするうちに区域外に住む人はどんどんいなくなり、やがて誰も住まなくなります。そのような地域の空き家もわざわざ取り壊わされることもない為、ゴーストタウンと化す可能性もあります。

不動産の価格が下がることは誰の目にも明らかではないでしょうか。

居住誘導区域外のイメージ

 

都市部でも無関係ではない

立地適正化計画は都市部には無関係だと思われる方も多いのではないだろうか。ところが都市部であっても安心はできない。今は都市部の地域でも、いつかは人口・世帯減の局面がやってくるし、その際には立地適正化計画を運用しなければならない可能性があります。

このときに、真っ先に区域外となるのは「災害可能性」のある区域だ。たとえば「土砂災害」の可能性のある区域などは外れる可能性が高い。「浸水」もしかり。浸水というと低地をイメージしがちだが、比較的標高の高いところでも安心はできない。

現在時点では、こうした災害の可能性のあるエリアとそうでないエリアにおいて不動産の資産格差は見られないが、やがては天地ほどの差が開く可能性が高いことを踏まえておこう。

立地適正化計画 都市部の浸水

 

この地方の立地適正化計画作成の取組状況

国土交通省が取りまとめた令和4年4月1日時点での立地適正化計画作成の取り組み状況として全国で356の自治体が行っております。

東海3県においては、以下の市町が実施(計画中含む)中です。

<愛知県>
名古屋市、豊橋市、岡崎市、一宮市、半田市、春日井市、豊川市、刈谷市、豊田市、安城市、蒲郡市、江南市、小牧市、東海市、知立市、豊明市、田原市、弥富市、津島市、尾張旭市、東郷町

<岐阜県>
岐阜市、大垣市、関市、中津川市、美濃加茂市、各務原市

<三重県>
津市、四日市市、伊勢市、松阪市、桑名市、伊賀市、朝日町

立地適正化計画 東海3県